かんだやぶそばKanda Yabusoba
江戸っ子は大のそば好きとして知られますが、江戸時代後期には3000軒を超えるそば屋があったとか。東京で「御三家」として知られる砂場、やぶ、更科のうち、「やぶ」の流れに連なるのが「かんだやぶそば」。創業は明治13年(1880年)です。

蔵前で「大阪屋砂場」を営んでいた堀田七兵衛さんが、連雀町にあったやぶそばの支店を譲り受けてこの地に創業。やぶそばの団子坂本店は、まるで遊園地のように1日中楽しめる施設だったといいますが、連雀町支店もそれに準じた造りとなっていました。


斬新な造りが話題を呼んだその建物は、1923年の関東大震災で倒壊したものの、その後に建てられた数寄屋造りの建物は、「神田にやぶそばあり」とこの街のシンボル的存在に。
5年前、その建物も火災で全焼してしまいますが、格子の天井や随所に直線を配したあしらいなど、前の建物の意匠を引き継ぐ店舗が完成しました。
5年前、その建物も火災で全焼してしまいますが、格子の天井や随所に直線を配したあしらいなど、前の建物の意匠を引き継ぐ店舗が完成しました。


「庭の緑を街と共有したい」との想いから、かつてのシンボルであった板塀をやめ、外周を植栽で取り囲む造りに。街づくりにも深く関わる4代目当主・堀田康彦さんらしい店構えといえるでしょう。


さて、「かんだやぶそば」といえば挽きぐるみのそば粉を使ったそば、濃い口のそばつゆが特徴です。「働く人のそば」として長く江戸っ子に愛されてきました。

また、創業以来のテーマである「楽しみながら食べる」を守るこちらでは、季節変わりのメニューも積極的に開発しています。夏の「じゅんさいそば」、冬の「青柳の貝柱そば」、早春の「白魚そば」などは戦前から人気のあった伝統の食材を復活させたものだとか。

注文を厨房に伝える際の“通し言葉”にも注目を。本来は厨房の全スタッフが連動して作業できるよう考案されたシステムですが、「せいろ〜1枚〜」と独特のふし回しで注文を読み上げる様は、まさにエンターテインメント!
酒の肴も豊富ゆえ、「お昼から一杯」なんて粋な過ごし方の常連も多い「かんだやぶそば」。江戸っ子気質を守り、育ててきた老舗の味わいをお試しください。
酒の肴も豊富ゆえ、「お昼から一杯」なんて粋な過ごし方の常連も多い「かんだやぶそば」。江戸っ子気質を守り、育ててきた老舗の味わいをお試しください。



2018年7月 文:倉石綾子 写真:山口靖雄